京都大学副学長から発出された「飲酒問題及び迷惑行為について」と題する文書に対する抗議文

 

 2023年6月1日、國府寛司・京都大学副学長から熊野寮自治会宛てに、「飲酒問題及び迷惑行為について」と題する文書がメールで送付されました。5月27日に、熊野寮で泥酔者の救急搬送があったことについて、問題化する文書です。

 熊野寮自治会は、寮生の生命を守る立場から、飲酒問題に関する取り組みを様々に行ってきました。入寮オリエンテーションでの啓発、飲酒についての知識を深める学習会、アルコールパッチテストの実施に加え、アルコールハラスメントを未然に防ぐための対策グループを設置して寮内のコンパでの見回りを行うなど、寮生独自に最大限の取り組みをしてきました。そして、啓発活動の中では、万が一泥酔者が出た場合には迷わず救急車を呼ぶことを、強く訴えてきました。今回、救急搬送が為されたのは、こうした自治会の訴えに従って寮生が行動した結果です。寮内の飲酒問題への対処は、寮自治会・寮生によって十分に行われており、大学当局が介入する筋合いはありません。

 しかし、大学当局は、こうした寮自治会の取り組みに協力することは一切なく、むしろ、寮自治会の取り組みに敵対し、今回の飲酒問題をやり玉に挙げることで、寮自治会の責任能力を否定し、寮自治への介入を不当に強めようとしています。また、救急搬送があった当時、京都府警が不必要に駆けつけ、警察手帳の提示や令状もなく、寮内への立ち入り捜査を行おうとしました。救急通報を行うことで寮自治への介入が為されることは、通報をためらわせる効果を持つもので、結果的に人命に危険を及ぼすことに繋がります。本来対立するはずのない、人命救助と寮自治の防衛を対立させる構造を、大学当局・警察は作り出しているのです。

 

 熊野寮は、創立以来、大学当局による一律の管理に任せるのではなく、寮生が自主的に運営を行うことによって、福利厚生施設としての最大限の機能を果たしてきました。当初は、大学の定めた規程で、男子日本人学部生のみにしか入寮が認められていませんでしたが、自治会独自の決定で、京都大学で学ぶ全ての者に門戸を開いてきました。また、学籍を持つ者だけで機能を独占するのではなく、地域住民の交流の拠点などとして広く社会に開かれた空間を実現してこられたのも、寮生による自治があってのことです。

 

 このような熊野寮の社会的な機能を奪い、営利優先の管理寮へと作り替えようとする大学当局による自治への介入を、熊野寮自治会は断じて認めるわけにはいきません。人命を人質に取った寮自治への介入に対して、熊野寮自治会は、以下のような抗議文を提出しました。

 

 また、27日当日には、警察の介入に対して、寮自治会は抗議行動を行いましたが、これを大学当局は一方的に、地域への迷惑行為と決めつけています。しかしながら、何が度を越した迷惑行為であるか等は、寮自治会と地域住民の間の直接の対話によって決められるべきであり、大学当局が決めるものではありません。熊野寮自治会は、地域住民と寮自治会の対話・交流の場として、「くまのまつり」等を開催し、自治の理念や警察/大学当局との緊張関係について発信してまいりました。今後とも、同様の取り組みを継続・発展させていく所存ですので、ご理解とご協力をお願いいたします。

 

 

以下、抗議文 (副学長名義の文書の全文も末尾にあります)

 

「飲酒問題及び迷惑行為について」に対する抗議文

 

京都大学学生担当理事・副学長

國府寛司 殿

 

 2023年6月1日に熊野寮自治会宛てに、京都大学学生担当理事・副学長の國府寛司氏(以下、副学長)名義で「飲酒問題及び迷惑行為について」と称する文章(以下、文章)が寄せられた。

 これは警察の不当な捜査に乗じた、熊野寮自治会への介入である。文章で追及されている「飲酒問題」等は寮自治会が自ら対処してきた問題であり、大学当局が介入すべきことではない。

 よって、熊野寮自治会は副学長の要請を拒否し、抗議する。

 

 文章によると、「本年5月27日(土)未明、川端警察署より本学守衛所を通じ、熊野寮において20歳未満の学生が飲酒をして体調不良を来し、救急車が出動した旨連絡があった。」とのことである。

 熊野寮自治会は、過度な飲酒や、一気飲みの強要などの飲酒に乗じたハラスメントを許さない立場で、入寮オリエンテーションや寮祭の直前に学習会を行うなどの活動をしてきた。今回の件においても寮生は、人命を最優先して救急通報し、かけつけた救急隊員にも適切に対応した。その上で事後的にも、自治会として再発防止のために経緯を取りまとめ、教訓化している。

 しかるに、文章は熊野寮自治会に対し、「当該事実の有無」、「発生経緯及び再発防止策」、そして「当該学生の所属部局、氏名等の情報」まで報告するように要求している。これは生命の安寧に関して、全くの逆効果である。というのも、大学当局に対する報告は、当局からの介入を恐れて緊急時に救急通報をせず、泥酔者の発生や泥酔者の個人情報を隠ぺいする方向にインセンティブを働かせるため、結果として、人命が危険に晒される事態となる。大学当局の「教育」の要求は逆効果で、個人の生命を真剣に考慮しているものではない。警察当局と大学当局が結託し、飲酒問題について情報の提供を要求して、熊野寮への介入を企てていることは不当である。

 なお、この報告の期限は2023年6月7日17時に設定されているが、これは文章が送付された6月1日からわずか1週間後である。熊野寮自治会は独裁制でも寡頭制でもない。徹底討論による意思決定を行っており、議論及び意思決定において、約1週間の期限はあまりにも短すぎる。拙速な意思決定を要請することは、不十分な議論と不和を招くものであり、自治活動の破壊に繋がる。よって、一方的な期限の要求に抗議する。

 

 また、文章は、寮生が「警察に対し拡声器を使った抗議を行うなどの喧騒を起こした」ことを「迷惑行為」としているが、この「喧騒」は、警察と思われるものの寮生が要求した身分の照会(警察手帳の提示)を拒否する不審者(以下、不審者)が寮生あるいは熊野寮自治会の同意なく敷地内に立ち入ろうとしたことと、不審者が寮生を盗撮したことに端を発している。しかも、この際、先に拡声器を使用したのは不審者の側であり、そのままでは不審者に場を制圧されたり寮生が逮捕されたりするおそれがあったため、やむをえず寮生側も拡声器を使用したという経緯がある。

 我々は上記不審者による公権力の濫用に対して正当な抗議活動を行ったのであり、自由奔放に騒いでいたわけではないばかりか公益性のある行動だったとすらいえる。このようなことは、今回が初めてではなく、飲酒に関わらず救急通報をした際に、不審者が熊野寮に対して上述の不当な行為に及ぶことが常習化している。警察当局は不審者を用いて、寮生を含めた人民の情報を引き抜き、後述するような人民の安寧と各人の自発的交流を阻害している。同意なく他人の敷地に踏み入る行為は権利侵害であり、かつ不法行為である。

 猛省すべきは、上記の行為に及んだ警察当局と、それを基に熊野寮に物申す大学当局である。本来、大学組織は、国家権力からの介入を拒否し、必要があれば国家権力を批判すべき存在であるが、国立大学法人である京大当局は警察当局による違法な介入に抗議しないばかりかこれと足並みをそろえて熊野寮を弾圧しているのであって、極めて遺憾である。

 

 そもそも、何が度を越した「迷惑行為」であるか等は、寮自治会と地域住民の間の直接の対話によって決められるべきことであり、大学当局が決めるものではない。両当局の一方通行的な弾圧とは対照的に、熊野寮自治会は地域住民の方々に当日・翌日に開催した「くまのまつり」の中で説明し、警察当局の不当な行為に対する抗議のあり方に理解を頂いた。これまでも熊野寮自治会は、地域住民の方々とともに、本来であれば寮自治会・当局間の取り決め(確約)に基づき大学当局が行わなければならない、不当な家宅捜索に対する抗議活動などを行っている。

 地域の中にあり地域に依拠する大学が地域に対して負っている責務は、副学長の文章から読み取れるような、「迷惑をかけない」といった消極的な「責務」にとどまるものではない。京都大学を構成する一部である熊野寮自治会は、「くまのまつり」等々で自治会の理念や取り組みを発信しつつ、地域住民同士が交流する場を提供するといった形で、地域に対して負っている役割を果たそうと努めており、そうした活動の中で信頼関係を築き上げてきた。この信頼関係は馴れ合いや経済的打算によるものではなく、完璧ではないにせよ寮自治の実践およびその結果と反省を住民の方々に評価していただくことで形成されているものである。

 この双方向的かつ自発的交流に基づく信頼関係に対して、両当局は弾圧という形で熊野寮自治会と近隣住民に干渉している。これは大学が地域に対し果たすべき責務を放棄する行為であり、大学としてあるまじきことである。よって、両当局は今後二度と同様の行為を起こさないよう状況の改善に全力を尽くすよう要請する。

 

 以上より、熊野寮自治会は、寮生と近隣住民の自発的交流に基づく信頼関係、並びに熊野寮の自治を破壊しようとする大学・警察当局の弾圧に抗議し、大学当局・副学長が要望する報告書と情報の提出を拒否する。

以上

 

2023年6月20日 熊野寮自治会

 

 

※以下、副学長名義「飲酒問題及び迷惑行為について」全文

 

 

令和5年6月1日

熊野寮自治会 御中

 

学生担当理事・副学長

國 府 寛 司

 

飲酒問題及び迷惑行為について

 

 本年5月27日(土)未明、川端警察署より本学守衛所を通じ、熊野寮において20歳未満の学生が飲酒をして体調不良を来し、救急車が出動した旨連絡があった。20歳未満の者が飲酒をする行為は法令に反するものであり、事実であるとすれば極めて遺憾である。

 また、同日の未明から早朝にかけ、熊野寮生が熊野寮周辺において警察に対し拡声器を使った抗議を行うなどの喧騒を起こした旨、周辺住民から大学に対し複数の強い抗議があった。このような喧騒は周辺住民に対する迷惑行為であり、住民との良好な信頼関係を築くうえで起こしてはならない行為である。

 熊野寮生による騒音問題や周辺住民に対する迷惑行為に関する苦情は、従前から繰り返し寄せられており、大学から貴自治会に対しては何度も改善を求めてきたところであるが未だ改善されていない。改めて、貴自治会が自治会としての責務を果たす意思を持ち、その能力を有していると考えるのであれば、周辺住民から根強い不信感を持たれていることを猛省し、今後二度と同様の行為を起こさないよう状況の改善に全力を尽くすよう要請する。

 なお、20歳未満の学生が飲酒をした疑いについては、当該事実の有無、当該事実が認められる場合にはその発生経緯及び再発防止策を取りまとめ、本年6月7日(水)17時までに厚生課まで文書により報告することを要求する。また、当該事実が認められる場合には、当該学生の所属部局より教育上の指導等を行う必要があることから、当該学生の所属部局、氏名等の情報を報告書の提出と併せて情報提供するよう要請する。