京都大学総合人間学部長 小島泰雄殿
京都大学文学部・文学研究科長 宇佐美文理殿
2020 年 11 月 25 日に総合人間学部の寮生 1 名が、同 26 日に文学研究科の寮生 1 名と文学部の寮生 2 名が
それぞれの部局長から呼び出され、面談を受けた。面談の内容は同年 10 月 31 日に行われた一回生の TOEFL
の受験日に、総人広場にて料理を振る舞ったことを注意するものであった。
熊野寮自治会は以下の 3 つの理由からこの呼び出しに対して強く抗議する。また、両部局長に対し、2021
年 3 月 1 日を期限として本声明に対する返答と当該寮生への謝罪を要求する。
1. 当該寮生の行為はなんら問題ではない。
(1). 当該寮生は必要な感染症対策を行った上で炊き出しを行っていた。
このイベントでは、消毒液の設置、密を避ける呼びかけ、運営学生のマスク着用など、徹底した
感染症対策が行われていた。屋外イベントであったことも鑑みれば、感染拡大の危険性はかなり低
いと考えられる。むしろほとんどの授業がオンラインで行われる中、全国から一回生を京都に呼び
寄せ、屋内で TOEFL の受験をさせることの危険性の方が高いと思われる。また、このイベント
は多くの本部職員によって妨害を受けたが、その際、炊き出しを行っている机に職員が密になって
迫り、運営学生を嘲笑・威圧するなど、感染拡大防止上問題のある行為を行った。なお、同じ日に
は、百万遍知恩寺境内にて秋の古本まつりが行われ、対策が行われつつも盛況であったことなども
考え合わせると、感染症対策を理由としたイベント妨害や呼び出しは、当時の京都府内の感染状況
や世間的な自粛状況から見ても過剰反応であると言わざるを得ないだろう。
(2). 当イベントは TOEFL 受験環境および通行に悪影響を与えるものではない。
炊き出しは TOEFL の午前の部と午後の部の間に行われたため、TOEFL 受験環境に一切の悪
影響を与えることはなかった。また当日、吉田南キャンパス内が混雑していたという事実はなく、
当イベントを妨害する職員が通行に悪影響を与えた可能性こそあれ、イベント自体が通行を阻害す
ることはなかった。
(3). 学生は構内広場で炊き出し、その他のイベントを合理的な範囲内で無許可で行う権利を有する。
日本国憲法第 21 条を参照するまでもなく、大学の民主主義的な運営には、学内で権力を持つ者
に対する批判的な意見が顕在化される必要があるのだから、学生は学内において、特に公共性が高
い広場において、表現及び集会を自由に行う権利を有している。その自由が制限されうるのは、そ
の行為によって教育研究活動の妨害、人権の侵害がなされる場合のみである。またその自由は大学
当局の許可の下に置かれるべきではない。学内での集会や表現が許可制にされるならば、当局に批
判的な集会や表現は許可されない可能性があるし、たとえそのような恣意的な運用が行われないと
しても、学生の表現が萎縮してしまうことは明らかである。実際、京都大学では長年、学生が無許
可で自由に炊き出しやその他イベント、集会を行ってきたし、それによって京都大学の自由の学風
が形作られてきたという面を無視することはできない。(1)(2)から、当イベントが教育研究活動
を実質的に阻害したり、他人の人権を侵害したりすることはありえない以上、当イベントが無許可
で行われたことにはなんらの問題も存在せず、逆に当イベントへの職員の妨害は京都大学における自由と民主主義を裏切る行為である。
(4). 村中学生担当理事の声明に掲げられたイベント禁止理由は当イベントには当てはまらない。
10 月 31 日付で発表された村中孝史学生担当理事名義の声明「TOEFL ITP 試験実施日におけ
る課外活動の自粛について」*1では、「良好な受験環境の確保」と「新型コロナウイルス感染拡大防
止」を理由として、学内での一切の課外活動の自粛を要請し、また同じく感染拡大防止を理由とし
て「構内敷地に物を設置するなどの専有行為、学生が集まる行為、飲食を提供する行為」を「絶対
に行わないようにしてください」としている。そもそも大学当局による学生の活動の一方的な自粛
要請や禁止は、学生の自主性や自律性を損なうものであり看過できない。その上で、自粛要請及び
禁止の理由である「良好な受験環境確保」「感染拡大防止」については(1)(2)で述べたように当
イベントは協力的であった。したがって、この声明がたとえ有効なものであるとしても、村中理事
の声明を理由として学生を呼び出す根拠になりえない。
2. 部局長による呼び出し行為は当該寮生の人権を侵害するものである。
呼び出し時にはどのような内容の面談なのか当該寮生は知らされなかった。また各部局は寮生を個別
に呼び出そうとしてきた。たとえ実際の面談の場でハラスメントを受けずとも、このような呼び出し方
法は当該寮生の心理的な負担を大きくするものであり、熊野寮自治会として看過できない。
3. 今回の呼び出し行為は学生の集会・表現の自由を萎縮させるものである。
面談時に、寮生は文学部長に対して、感染症対策を行っていたことを伝えたが、それでも文学部長は
感染対策を理由として注意を繰り返してきた。またイベント当日にも、妨害する職員に対して(1)(2)
について説明を行ったが、執拗に妨害を行ってきた。万が一、当イベントが感染拡大の可能性を招いた
としても、そのリスクは(1)で述べたように、そもそもの TOEFL 開催や職員による妨害行為の方が
高いと考えられる。それぞれの部局が本当にコロナ感染症対策に心を砕いているならば、当イベントに
関わった学生を呼び出すだけでなく、TOEFL の開催や当日の職員による妨害についても問題視する必
要がある。しかし、このような問題視を行った形跡はなく、したがって今回の呼び出しは、コロナ感染
症対策として行われたものではなく、単に学生の集会・表現の自由を萎縮させるためのものであると結
論付けざるをえない。
2021 年 1 月 25 日
京都大学熊野寮自治会