京大当局による吉田寮明け渡し訴訟に対する抗議声明
京都大学当局(以下、京大当局)が吉田寮現棟と食堂からの退去を寮生に求めている問題で、2019 年 4 月 26 日、 京大当局は京都地裁に明け渡しを求め吉田寮生20人を提訴しました。熊野寮自治会は今回の京大当局の行為に対して、以下に説明する理由から強く抗議します。
1.対話を放棄したうえでの法的措置は看過できない
京大当局は吉田寮自治会が老朽化対策のために求めている話し合いを長らく拒絶しておきながら、寮生を退去させる為に一方的に法的手段に踏み切っています。(※1)このような京大当局の対話を無下にする姿勢こそが現棟老朽化対策を遅らせているのであり、そのうえ法的手段に踏み切ったことは、学内の問題を学内の対話によって解決していくという本来あるべきあり方を放棄しています。この対話によって解決するあり方というのはそもそも、学問の自由を守る大学自治の観点から、外部の権力に学内への干渉をさせないよう、学内で問題を解決するために守られてきたものです。したがって、学内問題を訴訟によって解決しようとすることは、大学自治を守り、学内で問題解決を図るべき大学としてあるまじき姿勢です。大学の自治を尊重し学問の自由を守る観点から、このような対話を軽視する姿勢、そして対話を放棄して学内問題を学外権力によって解決しようとする姿勢は、看過できるものではありません。
私たち熊野寮自治会では、「徹底討論の原則」を掲げ、安易に多数決を取るなどして少数意見を無視した決定をするのではなく、寮生同士の対話によって可能な限り利害を調整し、誰もが納得できる結論を目指すことをいつも大切にしてきました。十分な時間を取った本音の議論をすることで、よりよい結論を導き出し、住みよい熊野寮を築いてきました。京都大学全体としても、このような対話や議論による意思決定を重視することで、よりよい大学運営を実現することが望ましいと考えます。
2.法的措置は京大当局によるハラスメントであり、学問の放棄である
学内の事柄について法律上の最終決定権を持つ大学当局と、学生との間には、厳然たる権力差があります。
このような大きな権力差がある二者間で、権力の強い側が弱い側を相手取って訴訟を起こすと、被告となる弱者は金銭的・時間的拘束を強いられることになります。また、訴訟されることへの恐怖から被告以外の市民やメディアにも委縮を与え、表現の自由を奪うことになります。(※2)
なにより、このような権力差を利用して意見の違う他者を従わせようとする事は明確なパワーハラスメントです。そしてこのようなハラスメントが見られるのは今回の訴訟においてだけではありません。
川添理事は 2018 年7月の少人数交渉においても「けしからん」と声を荒らげ「恫喝と取って構わない」と発言しました。これは入寮募集停止通告が出ているにもかかわらず、寮生が入寮募集を継続したことについて述べたものでしたが(京都新聞オンライン 8 月 3 日)、入寮募集停止通告は寮自治会と京大当局の間のこれまでの約束に反した一方的なものでした。
他にも吉田寮の問題に限らず、近年、京大職員はその職務として、学生に対する恫喝やビデオカメラでの撮影によって学生を威圧し、自由な活動や表現を抑圧しています。
この様に京大当局は、吉田寮生に退去を迫るに際して、権力を利用した恫喝・ハラスメント行為を繰り返し行うことで、異なる意見を封じ込めて自らの主張を無理やり押し通そうとしてきました。弱い立場にある者や異なる意見を持つ者を含め、あらゆる人々の意見を聞いて真理を探究していくことは、学問の基本的な精神です。京大当局による一連の強権的な姿勢・行動は、学問研究を行う機関としてあるまじきものだと考えます。
一方で私たち熊野寮自治会は、話し合いの際には「公平・平等の原則」を掲げ、全ての寮生の意見を尊重し、平等に扱うことを大切にしています。この原則を実現するために、ハラスメントによる言論封殺を許さず、誰もが気持ちよく生活できる寮を作ろうと努めてきました。誰の意見も無視しないあり方というのは、熊野寮のような自治寮のみならず、社会のあらゆるコミュニティでも実現されるべきであり、理性と言論の府たる大学はその先陣を切るべき存在です。上に挙げたような京大当局によるハラスメント行為の数々は、弱者やマイノリティを抑圧する構造を再生産するもので、断じて許すことができません。
3.法的措置は、「学生の安全確保」を口実にした学生自治の解体である
京大当局は、「学生の安全確保」を大義名分として掲げています。
しかし京大当局が最初に吉田寮生への退去を求めた 2017 年 12 月 19 日文書では、当時築 3 年しか経っていない新棟に住む寮生も対象になっていました。その後の 2019 年 2 月 12 日文書では新棟への居住を認めたものの、「本学による適切な管理の実現のため」として、「入寮募集を行わないこと」や「本学が指示したときは、定められた期限までに新棟から退居」することなどを条件に課しています。さらには、これらの条件を呑まなければ話し合いに応じないとして、吉田寮自治会がひとまず危険な現棟からの退去を申し出たにも関わらず、無視して法的措置に踏み切ったのです。
京大当局の行なっていることは実際には「学生の安全確保」ではなく、これまで学生が自主管理してきた吉田寮を京大当局の管理下におくことです。これは、吉田寮自治会と京大当局との間で確約を結び、数十年にわたって維持してきた学生自治を根本から解体する行為です。
吉田寮も熊野寮も、もともとは日本人男子学部生しか住むことができない寮でした。しかし寮自治会は誰もが教育を受ける自由を享受できる環境をつくるために、留学生や女子学生、大学院生などにも門戸を開いてきました。これは「日本人男子学部生のみ」に限定しようとする京大当局の「適切な管理」に抵抗し、寮生が主体となって自治を行い、自ら入寮募集するなかで実現した成果です。
また、吉田寮自治会や私たち熊野寮自治会は京大当局との交渉や自治会での議論を通じて、低廉な寮費を維持してきました。一方、京大当局によって入退寮選考権を失った女子寮では (※3)、2019 年から寄宿料が月 400 円から25000 円に跳ね上がり、経済的に困難を抱える学生が入寮しづらい状況になっています。京大当局の求める「適切な管理」は、これまで培ってきた学生自治を解体して学生から教育を受ける権利を奪う行為であり、断じて許すことができません。
以上の理由から、当事者間の対話を軽視し、学生に強権的にふるまう京大当局に対して、熊野寮自治会は強く抗議します。熊野寮自治会は京大当局が今回の訴訟を取り下げ、吉田寮自治会との交渉に応じ、対話を通じて問題を解決するべきだと考えます。よって、京都大学の運営、そして今回の提訴に責任をもつ役員会のメンバーである山極壽一総長、湊長博プロボスト兼理事、川添信介理事、稲葉カヨ理事、森田正信理事、北野正雄理事、佐藤直樹理事、阿曽沼慎司理事には、吉田寮自治会ら当事者との対話による解決を求めます。
(※1)
・2015 年 3 月
京大当局と吉田寮自治会は、京都市条例案を利用した補修を行う方向で議論を進めていくことで合意。
・2015 年 7 月
京大当局は確約を無視し、吉田寮の募集停止通告を一方的に宣告。その後副学長の交代に際して老朽化対策に関わる 交渉を一方的に打ち切る。
・2017 年 12 月
京大当局が吉田寮生に対して退去通告を発する。
・2018 年 7 月~8 月
公開された形での交渉を拒否する川添理事の求めに対し、吉田寮自治会は妥協し、数人の吉田寮の学生と川添理 事らが非公開の形で交渉する少人数交渉が開かれる。吉田寮自治会から様々な補修案や妥協案が出されたにも関わらず、川添理事はこ
れらを一蹴し、建設的な議論に努めなかった。少人数交渉を一方的に打ち切って以降、京大当局は吉田寮自治会との話し合いを拒否し 続けている。
(※2) このような権力を用いた強者による弱者への訴訟は「スラップ訴訟」と呼ばれ、アメリカ合衆国では規制をかけている州もありま す。(参考:東洋経済オンライン 2010/2/2『スラップ訴訟をどう抑止していくか 「反社会的な行為」という認識を広めることが重 要』https://toyokeizai.net/articles/-/3626)
(※3)
参考:京都大学平成 31 年度達示第 79 号より『京都大学学生寄宿舎女子寮規程』http://www.kyoto-
u.ac.jp/ja/about/organization/other/revision/documents/h30/t79-30.pdf
2019 年 5 月 14 日 京都大学熊野寮自治会