第三小委員会より熊野寮自治会に対して発出された文書に対する抗議文

 

京都大学学生生活委員会 第三小委員会委員長 佐藤健司殿

 

 2023年5月12日付で熊野寮自治会より貴委員会に発出した文章に対して、2023年9月22日付で貴委員会より返答があった。この返答は熊野寮自治会にとって看過できるものではなく、以下の通り抗議する。

 

 今回の返答における第一の重大な問題は、貴委員会の返答が不当に熊野寮の寮自治の一切を否定し、大学当局の管理の下に組み敷くものであるということである。

 

 返答における第一の段落では、熊野寮を「本学が所有・管理する施設」と規定し、「無学籍者の居住を認めたことはなく」、「本学に在籍している学生の居住の用に供するために本学が設置するもの」だから無学籍者の居住は認めないとしている。さらに、「貴自治会の独自の解釈や意向によって、これに反する運用を行うことが正当化される余地のないことを通告」までしている。

 

 こうした貴委員会による主張を要約すれば、「熊野寮に関しては京大当局に決定権(施設管理権)があり、決定事項に熊野寮が異議を申し立てたとしても、当局が『独自の解釈や意向』とみなせば決定は正当化される」ということである。これを突き詰めれば「大学当局が寮を潰すと決定すれば、寮自治会との協議をせずとも寮を潰せる」ということになる。実際に、新自由主義政策における大学改革の流れの中で「大学のガバナンス」「施設管理権」を口実に全国の自治寮や学生自治が潰されてきた。このことから、今回の文書は寮自治、大学自治の一切を否定する文書であると断定せざるを得ない。

 

 また、貴委員会や國府学生担当理事・副学長が、熊野寮自治会の再三の要求にもかかわらず団交・確約を「引き継がれていない」として拒否していることが、現在引き継がれている確約の内容を踏まえて間違いであると指摘してきた。しかし、この問題は単に形式的な問題にとどまらない。そもそも寮自治会のあり方に関わる重大な問題についての議論は、社会全体の問題であるから、公開された形での寮自治会と大学当局間の団体交渉によって行われてきた。そして団体交渉を基に確約が結ばれ、寮自治会が確約に基づいた内容を実践し、という形で熊野寮自治会の寮自治の内実は社会的に検証される中で形成されてきた。貴委員会が団交・確約を拒否している事実は、一大学としての社会的責任を放棄する立場に立っていることを示している。直ちに熊野寮自治会を含めた学内団体との団体交渉を再開すべきである。

 

 熊野寮自治会は建寮当初から現在に至るまで、社会的な立場から学生の権利を拡大し、防衛してきた。この歴史の過程で、熊野寮自治会は当初日本人男子学部生しか入寮が認められていなかった状況を社会的問題として捉え、女性、大学院生、留学生、という形で入寮資格を拡大してきたのである。こうした権利の拡大は、大学当局の決定を絶対化することなく、時には激しく衝突しながら闘い取られてきたものである。今回貴委員会より発出された返答はこうした熊野寮自治会の歴史を無下にし、寮自治会を大学の管理の下に組み敷くものである。熊野寮自治会として到底認めることはできない。

 

 第二の重大な問題は、熊野寮自治会を管理の下に組み敷くと同時に、大学改革の一環として、大学を国策の下に動員できる体制を作るものであるということである。

 

 京大が応募していた国際卓越研究大学制度に、2023年8月末を以て京大は落選した。国際卓越研究大学の認定をする有識者会議(泉学寮廃寮化を主導した金沢大の前学長も入っている)の選評では、「執行部の変革への強い意志は高く評価できる」としながらも、「全学として推進する体制になっていない」「責任関係や指示命令系統が不明確」とされた。最初から京大は申請内容の一つに「ガバナンスの確立」を掲げて国際卓越研究大学制度に応募したが、現状の学内の管理状況では不十分だと言われたということである。また、国立大学法人法が2023年12月13日をもって改定され、京大をはじめとした5つの国立大学に、予算の決定権など役員会以上の権限が付与された合議体が設置されることになった。しかもその成員の選任には文部科学相の承認が必要であり、この法改正は大学改革を通じて解体されてきた大学自治を完全に破壊するものである。今回の攻撃は、こうした大学政策を背景にして、京大当局が改めて学内の自治勢力を一掃しようと動き出したものであるとみなさざるを得ない。

 

 以上のような政策をはじめとして、近年の大学政策が「稼げる大学」をスローガンにしつつ、現実には大学運営に対する市場原理の導入という次元を超えて大学の自治を一掃し、実質的に大学を国策動員の拠点にすることが本質となっている。このことからも明らかなように、こうした国家権力による学生自治への攻撃は、大学のますますの国策への動員につながるものである。戦後の学生自治は、第二次世界大戦前の大学において学生自治が失われ、大学の戦争協力を容認してしまったことへの反省から生まれたものである。今回の貴委員会の返答は、こうした戦後の学生自治そのものの歴史を踏みにじるものである。熊野寮自治会はこうした社会的な観点からも、今回の貴委員会からの返答に抗議する。

 

 以下、個別問題について六点返答する。

 

一点目

 貴委員会は「熊野寮に無学籍者を居住させることを認めたことはなく、また、将来にわたって認めることもありません」と述べているが、院試浪人や不当な学生処分など、学籍のない学生が継続して居住する理由について以前の返答や声明でも記述していたにも関わらず、それに対しては一切返答がなく、そうした事情を一切無視した今回の記述は全くの横暴であると言わざるを得ない。

 

二点目

 「正確な入退寮生の特定・把握と大学への報告という、寮を管理する上での最も基本的な事柄が適切に果たされていない現状を深く自覚し反省してください」とあったが、そもそも入退寮者の名簿を京大新聞上に公表しているのは当局に熊野寮の正確な情報を提供するためではなく、社会的に正当に入退寮権を行使していることを明らかにするためである。また以前、厚生課が把握している寮生名簿を要求しようとしたが、応じなかったことがあった。「寮生名簿が不正確である」という批判は「熊野寮は正常に管理されていないので管理寮化・廃寮化する」という口実に使うものでしかなく、こうした寮自治への介入は全く不当である。

 

三点目

 「定員を無視して入居者を増やし続けること自体、適正な管理ができていないことのあらわれ」であると述べているが、ここでいう「適正な管理」は当局が一方的に決めたものであり、何ら合理的な根拠ではない。そもそも、安価な自治寮を求める学生に対して大学全体の寮の定員数が圧倒的に不足していることが問題なのであり、定員超過の責任はこれまで寮自治会の増寮要求に応じてこなかった当局にある。吉田寮への立ち退き訴訟の撤回や、熊野寮・吉田寮と同等に安価な寮の新設といった対応も行わず寮自治会を弾圧する貴委員会の態度は許されるものではない。

 

四点目

 「熊野寮の居住実態の把握の必要性」について、「寮の施設・設備の維持管理・補修を適切に行い、災害時の対応に万全を期すため」としているが、施設の補修・補充は寮生数や各寮生が居住している居室を把握しなくても可能であり、これまでにも行われてきた。また、災害時の対応を当局が行うとは考えられない。居住実態把握の目的が「災害時の対応」ではなく自治の解体に他ならないことは、吉田寮自治会からの吉田寮現棟改修案を無視し、立ち退きを求めて吉田寮生を提訴するという強硬手段に出たことから明白である。

 

五点目

 「既にこれまでの文書及び本文書において、質問の意味が不明であるものを除いて、必要な回答を行っている」とあるが、これまで熊野寮自治会より説明を求めたほとんどの記述に関して、貴委員会は全く回答していないか不十分な回答しかしていない。以下、寮自治会より説明を求めた記述に関して、回答がなされていないかまたは不十分な事項である。

 

・2022年3月1日に貴委員会より発出された文書の「法令及び大学の規程を遵守して寮生活および寮自治会としての活動を行うこと。」という記述に対し、同年5月11日、寮自治会は「その様に主張する具体的な根拠や主張すべきという判断に至った経緯」の説明を求めた。しかし、貴委員会は同年7月4日の返答で「貴自治会が、反論や声明において、本学の規程や法令を軽視するような主張をしている状況(中略)は、本学の福利厚生施設である熊野寮の今後にとって重大な問題となる」と記述するのみであり、これは回答として認められない。

 

また、「法令及び大学の規程」なるものは絶対的な正義を意味するものではない。2016年以降、弁護士の同伴も許さず、当該の言い分も一切顧みずに大学当局によって繰り返されてきた不当な学生処分も、一度は補修すると合意したにもかかわらずその合意を破って吉田寮の現棟の明け渡しを求めている裁判も、どちらも大学当局が「法令」「大学の規程」に則って行われてきたものである。「法令」や「大学の規程」は国家権力・大学当局が恣意的に運用できるものであり、これに則って行われる社会的不正義に対して抗議するのは当然であることを付言しておく。

 

・2022年10月11日に貴委員会から発出された文書では、熊野寮の居住実態の把握は「適正な人数の寮生が寄宿していることを確認するため」、また、「寮の施設・設備の維持管理・補修を適切に行い、災害時の対応に万全を期すため」に必要だとしていた。

 

寮自治会からは、当該文書の「寮の施設・設備の維持管理・補修を適切に行」うためとする部分に関して、

①「寮の施設・設備の維持管理・補修」は、熊野寮が京都大学の福利厚生施設として機能するために、誰がどこに居住しているかという属人性によらず行われる必要があるものであること

②実際これまで「寮の施設・設備の維持管理・補修」は「各寮生が居住している居室の一覧」という情報を寮自治会が提供すること無く行われてきたこと

 

の二点から

「寮の施設・設備の維持管理・補修」のために「各寮生が居住している居室の一覧」という情報が必要であるとは考えられないと表明し、「各寮生が居住している居室の一覧」が「寮の施設・設備の維持管理・補修」のために特に必要となるような事情の変化があったのであれば、説明するよう2022年7月4日に求めた。しかし、これに対して貴委員会からは今まで一切返答はなく、今回の返答でも「寮の施設・設備の維持管理・補修を適切に行い、災害時の対応に万全を期すため」と繰り返すのみであり、寮自治会が説明を求めた事項に対して答えているとは到底言えない。

 

六点目

 これまで再三伝えてきたことだが、杉万元副学長との確約書(H)で

「1.学生担当理事, 厚生補導担当副学長は, 熊野寮自治会との間において, 団交―確約体制を維持する。

2.学生担当理事, 厚生補導担当副学長は, 「熊野寮自治会と京都大学の基本確約」ならびに本確約を, 次期以降の学生担当理事, 厚生補導担当副学長に引継ぐ。」

とある通り、確約は、京都大学と寮自治会の組織間の約束事であり、存廃についてその時々の副学長の独断で決定することはできない。組織間の約束である以上確約そのものは既に引き継がれているのであり、「確約は引き継がれていない」とする川添副学長以降の学生担当理事・副学長の立場は無効である。直ちに団体交渉に応じるべきである。

 

 以上を踏まえ、我々熊野寮自治会は貴委員会に対し以下二点要求する。

・熊野寮を大学当局の管理下に組み敷くと同時に、大学の国策への動員を進めるものである今回の返答を撤回すること

・直ちに熊野寮の再三の要求に応じ、公開された形式での団体交渉を開催すること



2024年4月9日

熊野寮自治会

 

※第三小委員会とは

京大当局の設置している、教員によって構成されている学生の生活に関する組織=学生生活委員会の一部で、寮に関する事項を取り扱っています。決定権があるわけではありませんが、かつては川添元副学長が団交を拒否した後も予備折衝という形で寮自治会と開かれた形での折衝を行ったり、不当な家宅捜索への抗議文を発表するなどしていました。しかし、現在においては団体交渉を開くよう寮自治会が要求しても拒否されるなど、強硬な対応を取られているのが現状です



【9月22日に第三小委員会から来た文書本文】

 

https://telegra.ph/R5922%E7%86%8A%E9%87%8E%E5%AF%AE%E8%87%AA%E6%B2%BB%E4%BC%9A%E5%AE%9B%E6%96%87%E6%9B%B8-09-22

 

これまでの第三小委員会から発出された文書に対する寮自治会の返答

 

2022年3月1日に第三小委員会によって発出された文書に対して5月11日に提出した返答

 

 

第三小委員会に対する反論文 

 

2022年7月4日に第三小委員会によって発出された文書に対して10月11日に提出した返答

 

第三小委員会への返答 

 

2022年12月27日に第三小委員会によって発出された文書に対して5月12日に提出した返答

 

第三小委員会から熊野寮自治会へ発出された文章への返答